立派なマンションを見て母が言ったこと

「どんな人があんなマンションに住むのかなあ。」
独身時代、たまたま家に遊びに来ていた母が、道路の向こう側に新しく建った大きくて高いマンションを指さして言いました。

その頃、どうしたことかあっちでもこっちでも立派なマンションがたくさん建ち始めており、我が家の郵便受にも何度か広告が入っていたことがありました。
家賃並みの支払いでマンションに住むことができると謳った魅力的な広告は、しっかり読むこともなく廃棄するのがほとんどでした。
長くここで暮らすのであれば前向きに考えてみても良いのかもしれませんが、私は近い将来引越すことが決定していましたから、全く興味がなかったのです。
でも、間近で見る素晴らしいマンションはやっぱり素敵でした。
私の実家はかなり古い日本家で、子どもの頃はそれが非常にコンプレックスでした。
もしかしたら母も同じように思っていたのでしょうか?
母がふとそんな言葉を漏らしたのです。
子供の頃、古い家が恥ずかしいと言って母に諭されたこともありました。
でも、本音は私と同じだったのかもしれませんね。
一度で良いから、新しくて暖かい住宅に住まわせてあげたかったと思うのです。
マンションでも一戸建てでも良いので、そんな暮らしをさせたいと思いました。
結婚して久しい現在、実家には年老いた父母と祖母が暮らします。
今更新しく家にするつもりはないようですが、できるだけ快適に穏やかにくれせることを願っています。
そして、できることならやはりいつか見たような立派な建物に住まわせてあげたいなと思うのです。
でも、古くても不便でも良いと思って集まってくれる人たちもいます。
これはこれで幸せなのかもしれません。