姉の受験の思い出

姉が大学受験で、なんとか志望校に引っかかったときの話。
その希望している大学の英語の試験で、偶然にも前日観た映画の内容が出たというのだ。

前日に映画を観ているということでおそらく皆首をひねるはずである。
受験生が、大切な試験の前日に映画を観る余裕があるものか。

けれども姉は観ていたのである。
彼女いわく、もう何やってもだめだという諦めの境地に達し、急遽映画でも観ようと思ったらしい。
実に突飛な思い付きである。
流石に映画館にいくような時間でもなかったので、家で録りためていた録画分を観た。

洋画で、なにやら結婚式のシーンが出できたらしい。
その映画では、ウェディングケーキのおすそ分けをもらって帰ってきて、それを枕の下に入れて寝ていた。
どうやらおまじないの一種らしい。
それが非常に印象に残っていたという。

そして翌日、諦めながら試験を受けた。
その英語の試験で、何と昨日見た映画の内容が出た。
あの、ケーキを枕の下に敷いて寝るというやつ。

姉は自他共に、英語が大の苦手だと認めている。
ケーキを枕の下に敷いて寝るなんて、普通に考えたらありえないような描写をみたら、いやいやそんなはずはない、間違って読んでいるのに決まっている、と思い込むであろう。

しその映画を観て、ケーキを枕の下に敷いて寝る習慣がある、という事実を知らないで問題に臨んだのなら、きっと全問間違えていたに違いない。
だから、この逸話は我が家の中では、奇跡として語られている。
本当にその大学に行く運命だったとしか思えないくらい、すごい偶然もあったものである。

優等生

自意識過剰かもしれない。
人の評価がとても気になるこどもだった。
優等生だった兄に追いつけ追い越せ、と言われて育った。
兄なりに努力しているのだと思うが、そんなに頑張らなくても人並み以上のことができる兄だった。

自分もそうならないと、両親に愛してもらえないような気がしていた。
しかしわたしは兄とは正反対だった。
今でもそうだが、人と同じことをするには、人並み以上の努力が必要だった。
幸い努力はするほうだったので、成績は上位をキープできた。
みんなわたしを生まれつき頭が良いと思っていたが、それはわたしが死に物狂いで努力をしていた結果だった。
両親の基準は常に兄だった。
わたしに兄以上になることを求めた。
わたしは常にぎりぎりのところにいて、いつも崖から落っこちそうになる夢を見た。
ある時から急に頑張れなくなった。
頑張ろうという思いはあるのに、体が言うことを聞かないのだ。
それはとても焦りを生んだ。
焦れば焦るほど、悪循環に陥っていった。
そうして余裕だったはずの受験に失敗した。
両親はもうわたしになにも言わなくなった。
もう、なにもかも終わりだと思った。
生きていてもなんの価値もない。
しばらくの間、なにもできずに過ごした。
しかし、時が経って兄とは違う学校に行き、両親の敷いたレールからようやく外れることができた。
もう同じ道をたどらなくていい。
自分のペースで自分の好きな道を選んでいこう。
それはわたしにとってかけがえのない、自由を手に入れるための道のりだったのかもしれない。