すっかり好きになったムール貝

誰にでも苦手な食べ物の一つや二つはあるだろうが、私の場合のそれは、グリーンピースと貝類だ。
特に貝類は最高に苦手で、見た目と味の双方から好きになれない。
そんな中、唯一問題なく食べられた貝がひとつだけある。
ムール貝である。

ちなみに、帆立の貝柱は例外だ。
あれは貝ではない、と思っている。
そのムール貝だが、初めて食べたのはドイツビールフェスタだった。
パエリヤやパスタの上にのっかっている黒くて大きい桜貝のようなムール貝、とりあえず名前と見た目だけは知っていた。
あの風貌からすると、確実に好きではないな、とこれに関しては長年の経験による食わず嫌いをしていたものだが、ついついドイツビールで程よく酔っ払った私は、こともあろうにムール貝のガーリック風味を一皿注文した。
一皿といっても、4、5個がきちんと並んでいるようなよつではなくて、大きな紙皿の上にどさどさとてんこ盛りになっているやつだ。
もちろん今まで一度も食べたことのないムール貝を、何故注文したのかは定かでないが、おそらくは貝の山盛りというものに憧れていたのだろう。
山と積まれたフライドチキンを、思いのままに貪ってみたいという思いと同様だ。
それはさておき、ムール貝は大抵見かけるものは白ワイン蒸しだが、ここではガーリックの味付けだったのがよかったのだろう。
初めて食べたそれは、殊のほかに美味しく、驚くほど癖も臭みもなかった。
こういう屋外で食べる貝は、もしかしてあたったりするのだろうか、などと不安になりながらもその一皿をほぼ一人で平らげてしまった。
それ以来、すっかりムール貝のとりこである。
普通のスーパーマーケットではめったにお目にかからないこの貝だが、次に会えるのはもしかしたら次のクリスマスになってしまうかもしれない。
簡単に食べられないからこそ、余計にとりこになってしまうのだ。