どこかに連れて行くぞと叔父さんが言うと、母は決まって日本海が見たいと言いました。
母とは一回り以上も年下の弟である叔父さんは、車の運転ができる上近くに住んでいたので、こうやってよく私たちを色んな所に連れて行ってくれたのです。
私の父は家族サービスなるものを全くしない人でしたので、家族でどこかに行くようなこともありません。
もし、この叔父さんがいなかったら恐らく私たち姉妹は、本当にどこにも行かずに子供時代を過ごしたと思います。
子供らしくないのかもしれませんし、楽しい場所がどこにあるのか分からなかったからかもしれませんが、行きたい所と訊かれても何も思い浮かびません。
と言うよりも、家から連れ出してくれるのならどこでも嬉しいのです。
そんな時、母が日本海を見に連れて行けと言うのです。
私が住んでいた場所は、太平洋には比較的近いのですが日本海はとても遠く、目的を果たそうとすれば朝早く出て夜暗くなってからでした家に戻れません。
叔父さんがこれを一人で行うわけですから、とても大変だったと思います。
今自分が運転するようになって、その大変さが分かります。
でも、叔父さんはいつも反対などせず連れて行ってくれたのです。
「お前たちのお母ちゃんのリクエストはいつも大変だ」と言って。
日本海は、穏やかで静かで、太平洋とは全く違う雰囲気を醸し出しています。
ここに来ると、いつも海鮮料理を食べて、時間を過ごし帰ります。
それはそれはご馳走で、幸せだなといつも思ったものです。
母は、日本海を見て口に出来ない色んな気持ちを流していたのかもしれません。
海には、そんな浄化パワーがあるような気がするのです。